つくば植物園には温室が6棟あります。
サバンナ温室・熱帯雨林温室・熱帯資源植物温室・多目的温室・水生植物温室・温室絶滅危惧植物温室。
私は暑さに弱い方ですから温室はやや苦手ですが、寒い季節には夢のような空間です。
まずは熱帯資源植物温室へ入ります。
冬季温室へ入るとカメラのレンズが結露し、拭いても拭いてもなかなか晴れません。
今年はポケットに入れたスマホで撮ってみます。
大丈夫でした。結露せず、すぐ撮れました。
バナナ
英名:banana
真っ先に目に入るのは緑豊かなバナナの葉、花や実もあってたちまち南国気分です。
しかし、バナナとは何ぞや?
どこにもあるバナナですが調べてみると謎多くむつかしい植物でした。
バナナはバショウ属の果実ですが、野生のバナナの実は種子が多くて食べられません。
ところが紀元前数千年のころには既に種子なしバナナが栽培されていたようです。
しかしその種子なしバナナの起源は長い間なぞに包まれていました。
これが明らかになったのはやっと1955年、イギリスの植物学者シモンズらの遺伝子研究の成果でした。
その結果、種子なしバナナは主にムサ・アクミナタ Musa acuminata と ムサ・バルビシアーナ Musa balbisiana (リュウキュウイトバショウ) の倍数体や交雑種であることが判明したのです。
しかし野生のムサ・アクミナタ や ムサ・バルビシアーナ の実には多数の硬い種子があり、食用にはなりません。どうして種子がなくなったのでしょう?
園内のパネルではこのように説明されていました。
『種の入ったバナナは染色体を2組持つ「2倍体」ですが、これが突然 染色体を3組もつ「3倍体」になったのです。3倍体だと正常に減数分裂ができないため種ができなくなりました。』
東南アジアで創られた栽培品種はアフリカへ、さらに中央・南アメリカへと広がり、さらに多種の甘くおいしいバナナが創られました。
この植物園にはバナナの栽培品種や野生種が数種植栽され、果実も収穫されています。
センナリバナナ
学名:Musa chiliocarpa( Musaはリンネによる命名)
昨秋 王冠のようにあでやかな花が咲いていました。
めくれ上がった紅い苞の下に2段づつ花が咲きます。
上の方はすでに小さな緑色の果実が見えます。
役目を終えた苞は巻き上がって段状に残存。
2021年10月28日
6週後、あの輝きはどこへやら、ぼろを纏ったかのような姿です。
2021年12月9日
しかし 既にぼろの奥には黄色っぽい小さなバナナが見えています。
ぼろに見えるのは茶色に縮んだ苞・長く突出する雌しべの白い花柱・茶褐色に縮れた雄しべ。
2021年12月9日
さらに7週後にはもうぼろはなく、センナリバナナの名の如く、多数の小さいバナナが下がっていました。
下の方では再び開花が始まっています。
2022年1月28日
渋い赤色の苞には黄色の花が並んでいました。
赤く縁取られた葯と並んだ柱頭が美しい。
雌花と記載されていますが、両性花のようです。
蜜も滴り落ちています。
2022年1月28日
アカバナナ
Musa 'Morado'
見上げるとはるか上の方に赤い花と房になった果実が見えました。
2022年1月30日
古い布のような紫紅色の苞。
このバナナは酸味があって料理用だそうです。
2022年1月30日
バナナ’仙人蕉’
新しい果穂ができそうです。
ムサ・バルビシアーナ (リュウキュウイトバショウ)
Musa balbisiana
これはムサ・アクミナタの倍数体と交雑して種無しバナナを作ったとされるムサ・バルビシアーナです。天井に届きそうな高さに育ち、子孫も増えています。
リュウキュウイトバショウは沖縄で芭蕉布の原料としても栽培されているバショウでした。
芭蕉布で着物を1枚作ろうとすると、3年かけて育てたリュウキュウイトバショウが200本いるそうです。
長い穂状果穂が下垂して先端に暗紅色の苞が見られます。
花や果実が見られるかどうか、これからも観察していきたいと思います。
もう一つ、付記することがあります。野生のバナナの送粉者です。
たっぷり蜜の入った大きな花、花は夜開き、花の色は昆虫には見えない赤色。
驚くなかれ、コウモリでした!
一方、バショウ属の中でも昼間に花が上向きに咲くヒメバショウはハチドリが送粉するそうです。
今まで無関心だったバナナやバショウが少し身近な存在になりました。